タメルの北からトリスリ・バザールへの乗合パスが出る。モハン・タクリという名のガイドと一緒にパスに乗り込んだが、彼の席はなく仕方ないので屋根の上に乗ると言う。唯一頼りのガイドが傍に居ないのは不安だったが、やむを得ず出発。
がたがたの峠道カカニの丘を越えて行く。パスはやがて当たり前のように故障し、ストップしたが、乗客は降りて歩く人、ぼけっと修理を待つ人など、別に特別なことではないようだった。
・・・しかし私は焦った。ガイドの姿が見えないのである。
「騙された!」 やっぱり!
絶望的な気分で今後のことを考えるが、パニックとなった頭の中では何の考えも浮かばず、走り出したパスの中で泣き出しそうな気持ちのまま終点であるトリスリバザールに到着した。
トリスリバザールは結構大きな町だ。
パスを降りた私は絶望的な気分のまま、これからどうやってカトマンズへ引き返そうか、と言う事だけで頭の中がいっぱいだった。もともと小心者なので、こういう局面では気持ちが自然とネガティブな方向へ進んでしまう。
自分のまわりには訳の分からない色んな人々がせわしなく行き交い、自分の存在はまったく無視されている反面、時々好奇の自に晒されたりする。
そこに自分の居場所はなく、しばらく立ち尽くしたまま呆然としていたら、・・・
不意にモハンが現れた。彼には全然悪気は無いみたいだが、しかし自分はほっとするやら、腹立たしいやらで「何処に居たんだ?困るではないか!」という意味の事を貧弱な英語で詰め寄った、つもりだったが、彼は意に介さず何やら誰かと談笑している。
訳のわからないまま、いよいよトレッキングの始まりだ。
カトマンズの喧騒は無意識に自分を緊張状態の中に追い込めていたが、ここトリスリバザールはのどかな農村の雰囲気に満ちている。村を出てぶらぶら歩き出すと、1月というのに暑いくらいの日差しも手伝って、気分は晴れ晴れとしてくる。
今ではこのトリスリバザールから歩き始めるトレッカーはほとんど皆無だろう。
なぜなら当時、徒歩で丸2日分の行程を、今なら数時間、車の移動で済むからだ。当時も車道は存在したが乗合パスの類は少なく、ランタン・トレッキングの歩き出しはトリスリバザールが常識であった。 (HAYA)
⇒懲りずに、つづく